作者: ドメニコ・クレスティ DOMENICO CRESTI (c.1558-1638)
(イル・パシニャーノ IL PASSIGNANO)
主題: 「風景の中に立つペナフォルテの聖ライモゥンドゥ」
SAN RAIMONDO DI PENNAFORTE STRANDING IN LANDSCAPE
手法: ペン、茶色のインキ、ウォッシュ。
寸法: 266 x 221mm.
出所: ウイリアム・エズデイル (William Esdaile, 1758-1837) (Lugt 2617)
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| ドメニコ・クレスティは、1558/60年頃にフィレンツェ近くのパシニャーノで生まれたイタリアの大画家である。生地の地名を取ってイル・パシニャーノとも呼ばれている。クレスティは最初マチェッティの弟子になり、続いて1575年頃、後期マニエリスムの代表者フェデリコ・ツッカーロに認められて助手となり、本格的な修業を行った。ツッカーロから高い評価を得たクレスティは、師匠と共にフィレンツェ大寺院の丸天井を装飾している。ピサに滞在した後、クレスティは1581/82年頃から1589年まで、ヴェネチアで巨匠たちを研究し、生涯ヴェネチア画派の一人として活動した。中でもヴェロネーゼから直接教えを受けたことは、ヴェネチア派の優れた点を最大限に吸収することとなった。 |
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しかし人物像などはティントレットをほうふつさせるものもある。クレスティがフィレンツェへ戻ったのは1589年で、そこで初めてサン・マルコのカペラ・サルヴィアーティの側壁にフレスコ画を描くという大事業を請け負った。このようにヴェネチア派特有の色調に支えられたクレスティの芸術は、17世紀初頭の法王たちから絶大な愛顧を受けることになった。事実クレメント八世はクレスティにナイトの爵位を授け、多くの作品制作を依頼した。またウルバン八世もクレスティに地位と報酬を与え、高く評価している。本素描もクレメント八世(1536−1605)の依頼によるものと考えられる。この主題はバロセロナやボローニャで熱心な伝道活動を行ったドミニコ会の修道士であり神学者のライモゥンドゥを描いたものである。
本作品の制作年は分かっていないが、右側にクレメント八世の盾形紋章があるので、これが一つの手がかりになると考えられる。
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つまりレイマンドが聖人の列に加えられたのは、クレメント八世が法皇の時で、その在位期間は1592年から1605年なのである。そしてレイマンドの聖列加入の年が1601年であるから、この素描が描かれたのは1601年頃か、遅くとも1605年までと考えられる。いずれにしても聖列加入を記念して描かれたと考えるのが妥当である。本素描の手法は、クレスティが通常素描に用いているペンとインキにウォッシュを加えた方法である。スコットランドのナショナル・ギャラリー収蔵の「聖母マリア」(D701)や、クライストチャーチ蔵「不具者を治すペテロ」(No.254)などは、この手法で描かれたものである。様式的にはフィレンツェ、ローマ、ヴェツィアなど、各画派の長所を取り入れて、残余のマニエリスムとアカデミズムの血統を融合させたものである。それはフェデリコ・ツッカーロのスタイルをより鋭くした自然主義的様式とも言うべきもので、美術史に重要な位置を占めるものである。なお、本素描がW.エズデイルという最高のコレクターの所蔵であったことは特筆すべきことである。
西洋古典版画研究家 山中己充人 |