原画: ジョセフ・ナッシュ JOSEPH NASH (1808-78)
版画: 同上
主題: 「ハットフィールド邸の主階段」PRINCIPAL STAIRCASE AT HATFIELD
手法: リトグラフ(黒、ベージュ、白の三色石版画)
寸法: 209 X 285mm.(画面)
連作: 「古い時代の英国の邸宅」3番
制作: 1869年 |
| ジョセフ・ナッシュは1808年にグレイト・マーロウで生まれた英国の画家であり石版手法を用いた版画家である。特に建築物の描写はサミュエウル・プラウトと同様に極めて優れた業績を残した。父親はクロイドンで学校を持っていた聖職者であったため、ナッシュは幼い頃から知的環境で育った。 |
しかし聖職者にはならず、オーガスタス C.ピュージンの弟子となり、素描画家となる訓練を行った。ナッシュは直ちに才能を開花させ、ゴシック建築の描写に特別優れた才能を発揮した。1829年の時、ピュージンと共にパリへ行き、1830年に「パリとその周辺」の連作素描を描いた。 |
| ナッシュは若い頃リトグラフ技法についても学び、版画家としても既に一流の技量を身に付けていた。このため1830年には師匠ピュージンが描いた「ゴシック建築のある風景」をリトグラフにより版画に制作した。1834年から1848年にかけては「ザ・キープセイク」や様々な年鑑書にも版画を多数制作した。1834年、ナッシュはオールド・ウオーター・カラー・ソサイアティ(OWS)の準会員に選ばれ、1842年に正会員に選出された。「水彩画協会」には1835年に初めて出品した。ロイヤル・アカデミーにおいては1863年と1871年に出品し、ブリティッシュ・インスティチューションとOWSにおいて実に276点の作品を発表した。続いて「新水彩画協会」にも出品し、1855年には「パリ美術展」に6点の素描を出品し褒状をもらった。各美術展で発表した作品は建築物を主題としたものであるが、ナッシュの作品は通常の建築素描とは異なり、それらの主題にシェイクスピアやスコットあるいはセルヴァンテスなどの作品の人物を加えた極めて面白いものである。このようにナッシュの作品の典型的特徴は、建物の内外に美しい衣装を身に付けた人物を配置していることである。 |
本作品はナッシュの代表的版画「古い時代の英国邸宅」をJ.
Corbert Andersonが再編集し、Samuel Stanesby がリトグラフにより縮小して1869年に出版したものである。主題は、イングランド南東部の州ハートフォードシャに在るハットフィールド・ハウスの主階段」(築1607−11年)を描いたものである。この館は初代ソールズバリ伯爵であるロバト・セシル卿がジェイムズ一世国王の第一閣僚であったときに建てたものである。この建物は、1496年に完成したソールズバリ侯爵の邸宅「ハットフィールド宮」の敷地内にある。エリザベス一世はこの宮殿で即位の知らせを聞いたのである。本作品はチューダー王朝時代の英国建築の特徴を描いたものであるが、同時に英国の祖先の衣服や習慣あるいは娯楽なども描かれている。それゆえこの作品は永久の価値を持つ歴史的作品と評価されている。なお、この連作版画のために描かれた水彩画三点が大英博物館(B.M.1900.
8. 24. 424-526)に収蔵されている。
西洋古典版画研究家 山中己充人 |